「はい、国光」
究極の地獄絵図
「…なんの真似だ」
「いやねボケちゃって。愛妻弁当に決まってるじゃない」
「お前は妹だろう」
「…禁断の恋ほど燃える」
青春学園テニス部部室
午前中の練習が終わり各々が一息ついている中淡々と繰り広げられる会話。
何を言っても無駄だと感じたテニス部の部長である手塚国光はふう…と深いため息をつく。
手塚。
兄の国光と双子なだけあって、容姿も性格も(多少変だが)そっくりである。
「なんで嫌がるんッスか部長!先輩が作ってくれた料理なんて羨ましいッスよ
」
「ならお前が食べればいいだろう」
「いいんスか!?」
「ああ」
「やった!いただきまーす」
桃城がわくわくと弁当箱(というよりお重だ)をぱかっと開けたその瞬間
プシュウウウゥ・・・
異様な音と共に白い煙がもくもくと立ち上がった。
「…」
「なによ」
「…お前は玉手箱を作ったのか?」
「そんな訳ないでしょ国光。それ以上老けたら大変よ」
「…最後の一言は余計だ。じゃああの煙はなんだ」
「…食材が新鮮な証拠じゃない?」
「ゲーホゲホゲホッ!!」
煙を吸い込んだらしく激しくむせる桃城。
しかしそんなのおかまいなしに口論する2人。
…哀れ桃城。
「今の音はなんだ!?」
「どうしたんスか?」
さっきの音が聞こえたらしくぞろぞろと他のメンバーがやってきた。
「先輩の作った弁当から煙が…」
「は?弁当?」
「桃ずるいっ!!俺も食べたいにゃー!!」
桃城が指を指した方には確かにまだかすかに煙を漂わせてる弁当。
「あ、保温性とかいうやつかい?」
「フフ、凝ってるね」
「いや、保温性…っていうかなんか液体が煮え立ってましたよ…異臭を漂わせながら」
「ハハハ、そんな訳な……うわ…」
弁当を覗きこんだ大石の目に映ったのはボコボコと不気味な音を立てる紫色の汁。
「は…は…凄い、ね」
「ふふ、力作よ。」
「何を入れたらこうなるんッスか…」
「…だから嫌だと言ったんだ」
「あ、そうだ!せっかくだから皆で食べましょ」
「「「「「え゛」」」」」
「いや、俺は胃が痛いから…」
「あ、俺カルピンに餌やらなきゃ」
ガシッ
「食うよな?」
「「喜んで!!」」
こうして強制的に食べさせられる流れになったレギュラー陣。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう…」
ふわりと微笑むの片手にはお椀に入った紫色の汁。なんともミスマッチだ。
…魚の骨が突き刺さってるように見えるのは幻覚だろうか。
「国光もほら、あーん」
「…」
「何?」
「周りの反応を見て何か思わないか?」
「え…」
その言葉にハッとして周りを見渡す。
「ああ…ごめんなさい。私としたことが…」
分かってくれたか、とホッと息をついたのもつかの間。
「飲み物がなかったわね…。乾!」
「なんだい」
「人数分乾汁用意して」
なんと更に事態を悪化させた。
結局に逆らえる訳もなく泣き泣き食べて次々と倒れたレギュラー陣。
当然のごとく次の日は全員学校を休んだのであった。
「…油断せず行こう」
手塚の苦労はまだまだ耐えなく続く。