やきもちやきな
ー越前の場合ー








「ギ、ギャアアァア!!!!!!!!」




もっと色気のある声は出せないのかと言っていい程の悲鳴が部室内に響き渡った。

ここは青学テニス部部室。
愛するリョーマの傍に居たいが為に今日も私はマネージャー業に励んでいる。
うしっ、頑張るぞー!なんて意気込んで皆が練習してる間に散らかり放題の部室を掃除をしてしまおうと考えた矢先出てきたのはこれだー…
光沢のある漆黒の羽に長い触角、カサカサと動き回る嫌な音。


乙女の天敵、ゴキ○リ。



「だっ…だだだ誰か…!!!!」


パニックに陥ったあまりキョロキョロと周りを見渡したけど当然誰もいるはずがない。
たかがゴキブリ退治で誰かを呼んで練習を邪魔するわけにもいないし…

よし、ここで負けたら乙女がすたる…!!


「こ、このやろっ!!くらえ!!」


といっても接近戦なんてとても無理!!
とりあえず離れた距離からえいっ!と勢いよくその場にあった本を投げる。
が、ゴキはそれを華麗に避けた。
うわ…ちょっと待ってどうしよう。
この展開はもしや…


「ひいぃいぃちょ、やめっ…お願いだからこっち来ないで!!!!!」


嫌な予感的中。

私の懇願も虚しくカサカサとこっちに向かってくる黒い物体。
あああ自分の馬鹿!!!なんでよりによって隅に逃げちゃったんだろ…!!!
もはや逃げる場所がない。どうしようもなくなってリョーマ…!!!とギュッと目をつぶった瞬間ふわりと何かが体を包んだ。



「ふぅ…大丈夫?どうして誰も呼ばないの、。」



聞き覚えのある優しいテノールに安堵の溜め息をつく。



「ふ、不二ぃ…ありがと〜…」



力が抜けてじわりと目頭が熱くなる。
不二はどういたしまして、といつものように微笑むと私の背中をぽんぽんと叩いて宥めてくれた。



「あれ、それでゴキは…?」


「え?あぁ…消したよ。


「そ、そう…(消し…?)でもなんでこの状況が分かったの?しかもドアが開く音なんてしなかったし…」


「あぁ…それは…ーッ!どしたのっ!?」



バターン!!と勢いよく菊丸がドアを開けたと思ったら、私達を見るなり固まった。



「ゴメン…俺、お邪魔だったかにゃ?」


「え?なんで?」


「だって…」


うん。凄く邪魔だよ英二。


「ひいいっ!!ごめんにゃー!!」


「ちょ、ちょっと不二!無駄な殺生は駄目だってば!!」



「大丈夫ッスかせんぱーい!!!」


「お、おい。さっきの悲鳴はなんだ!」



いいところに来てくれた!!
よかった…!これで救われる。



「皆…大丈夫だよ!ありがと!」


「…大丈夫そうには見えないんだけど」


「あ、リョーマ!!!!」


「フフ…来るのが遅かったね越前…」


「…不二先輩、先輩から離れてくれません?


ん?なにか言った?



真っ黒なオーラが渦巻き、周りがオロオロとしてる中でやっと今の状況を理解した。
そういえば不二に抱きしめられてたんだった。



「誰の物だと思ってるんスか」


「クス…越前もまだまだだね。まぁ今日のところは離してあげるよ。」


「行くよ、先輩」


「あ、うん…ありがとね!不二!!」


「いいえ。」



皆にぶんぶんと手を振ると無言でずんずんと歩くリョーマのあとを必死に追いかける。



「あー大変だった…危うく菊ちゃんが死ぬとこだった…」


「ふーん」



あれ…そっけないのはいつものことだけどなんか声のトーンが低い。
…もしかして怒ってる?



「…リョーマ?」


「なに。」


「怒ってる?」


「別に」


「怒ってるじゃん」


「…」


「リョーマ!!」



ぐ、とリョーマの腕を掴んだ瞬間、振り返ったその表情は見たこともないぐらい悔しそうで…
気づいた時には逆に両腕を掴まれてダンッと壁に押さえつけられていた。



「…ねぇ、なんで俺を呼ばなかったの」


「ごめ…」


「理由は。」


「だって練習の邪魔したくなかったし…」


「だからってなんでよりによって不二先輩と…。ねぇ、考えたことある?俺の気持ち」


「う…ごめんなさい……ってリョ、リョーマ!?」


「黙って」



ふう、と大きな溜め息をついたと思いきや私の首元に顔を埋めるリョーマ。
触れる髪がくすぐったくて、温かい息が首にかかって、どうにかなってしまうんじゃないかと思うくらい心臓が加速してバクバクと音をたてる。



「…ッつ…!!」



ふいに襲いかかったチリッとした甘い痛みに顔をしかめると、そのいつもの不適な笑みで



「お仕置き。今回はこれで許してあげるけど次はこんなんじゃ済まさないから」




それから部活に戻る途中、キャップのつばをぐいっと引っ張って 「助けに行けなくてゴメン」とぼそりと謝ってくれた。
そういう不器用なところがまた愛しいと思ってしまう私は重症でしょうか。





白い首に咲いた鮮やかな赤いは俺のモノだと証明する証。






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因みにヒロインがゴキに投げつけた本は実は不二の本。
代償としてヒロインにデートを要求する不二をリョマが食い止めればいいと思う\(^0^)/