人の暖かさ
con dolore
マネージャーを始めて一週間。
皆とも打ち解けてきた頃。
「ーッ!!遊ぼー!!」
「よしよし、部活終わってからね?ジロちゃん」
「えー・・・今がいいC!」
「だーめ!ほら、景吾に怒られるよ?後でムースポッキーあげるから」
「マジマジ!?じゃあ俺頑張るっ!!」
「も扱いがえらい上手くなったなぁ。助かるで」
忍足はそう言うと柔らかい笑顔を浮かべながら私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「へへ、そう?よかった-!」
「あーっ!抜け駆けすんなよクソクソ侑士っ!!」
部活中にも関わらずぎゃあぎゃあと騒ぐ一行。
「激ダサ・・・」
「でも先輩が来てから皆楽しそうですね!」
「テメェ等・・・さっさと練習に戻りやがれ!!」
すっかり仲良くなったレギュラー陣は隙を見てはちょくちょく私に話しかけきて、景吾に怒鳴られる。
これが私達の日課となっていた。
マネージャー業は大変だしファンの子の視線が痛いけど・・やっぱり楽しい。
凄く楽しそうにテニスをする皆を見るのが大好きになっていた。
部活も終わり帰宅時間。
「じゃあねーっ!」
「また明日なっ♪」
「跡部・・・襲ってもうたらアカンで?」
「うるせぇ。それはテメェだろうが忍足」
迎えの車を呼んで2人で一緒に帰る。
同棲してる事は親戚だから・・・ということにして上手く誤魔化して説明したらしい。
―――夕食の時間―――
かなり広い食卓にはいつも景吾と私の2人だけ。
前々から気になっていた事を聞いてみることにした。
「ねぇ、景吾のご両親って忙しいの?」
急な私の問いかけに景吾は特に驚いた様子もなく口を開く。
「まぁ、父上は会社を幾つも経営してるからな・・・あの女は他の男と遊んでて帰ってこねぇよ」
あの女・・・母親の事だろう。伏せたアイスブルーの瞳が悲しそうに見えた。
なんだか聞いてはいけない事を聞いてしまった感じだ。
「そっか・・・寂しくない?」
その言葉に顔を上げた景吾は、私を見てフッと笑った。
「別にんな事ねぇよ。今はお前がいるしな」
そう言って見せた笑顔はとても優しくて、その言葉が嬉しくて嬉しくて・・・
「じゃあ私と景吾は家族だね!!でね、景吾は弟!」
「バーカ・・・。お兄様、だろ?」
私は絶対景吾を1人にしない。
景吾が私にそうしてくれたように。
部活から帰るとその日にあった出来事を話すのが日課になっていった。
「本当の家族・・・こんな感じだったのかなぁ」
一人部屋にしては無駄に広い自室に入りバフッとベッドに飛び込むとぽつりと呟く。
夕食を終えたばかりのせいか眠気に襲われ、重い瞼を閉じるとすぐに眠りについた。
「・・・・・・ご、めん・・・な。」
どうしてそんな悲しそうな顔するの?
「…んで…なんで…!!!!」
どうして泣いてるの?
「この子さえいなければ…」
紫になったアザ
滲んだ血
涙でぼやけた視界
「お前なんて
死んでしまえばいいのに」
心 が 砕 け 散 る 音 が し た 。
「………!!!」
聞き覚えのある低い声に一気現実にに引き戻された。
「あ・・・れ・・・・・・けい、ご?」
目を開けると眩しい光と景吾の姿が目に入った。
なにやら険しい表情私を見下ろしている。
「・・・どうしたの?」
「どうかしたのはお前の方だろうが・・・時間になっても来ねえから起こしに来たらうなされてるしよ。」
景吾は綺麗な指でスッ・・・と私の涙を拭った。
「うなされてたんだ・・・ごめん!!すぐ用意するね!!」
「大丈夫か?」
「勿論!」
心配させてはいけない、と思いにこっと笑顔を作る。
「・・・なにかあったらすぐ言え」
険しい表情を残したままそう言うと景吾は部屋を出て行った。
あ、れ?・・・どんな夢だったっけ。
なんだか悲しかったのは覚えてるんだけど・・・。
忘れちゃいけない事のような気がするけど、どうしても思い出せない。
「・・・よし。考えても仕方ないし朝練行きますか!!」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、両手で頬をぱちん と叩き支度をし始めた。
さあ、悪夢の始まり始まり。
奏でてみせよう 最高で最悪な物語。